パンデミック時の景気刺激策から金融引き締めへ
2020年3月、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大で世界の金融市場が混乱し、米国経済がほぼ停止状態となる中、米連邦準備制度理事会(Federal Reserve)は米国の政策金利をほぼゼロまで引き下げました。さらに、量的緩和策を相次いで実施し、市場への資金供給と金融市場の安定化を図りました。こうした緊急措置は長期的な景気後退の回避に役立った一方、2021年半ば以降に表面化したインフレ圧力の一因にもなりました。
2022年初頭から2023年半ばにかけて、米連邦準備制度理事会は過去40年間で最も急速な利上げを進め、政策金利を0.25%から5.25~5.50%の目標範囲まで引き上げました。目的は、2022年に9%を超えたインフレを抑え、物価の安定を取り戻すことでした。この政策によりインフレは鈍化しましたが、次のような影響も生じました。
- 借入コストの上昇
- 融資条件の厳格化
- 景気減速への懸念の高まり
2024年後半には、インフレの鈍化と景気後退リスクの高まりを受け、米連邦準備制度理事会は方針を転換しました。9月と11月の2回の利下げにより、年末時点の米国の政策金利は4.50~4.75%となりました。しかし2025年初めには、インフレが想定以上に根強く推移したため、米連邦準備制度理事会は「様子見」の姿勢を取らざるを得なくなりました。
2025年7月下旬の会合では、米連邦準備制度理事会は米国の政策金利を4.25~4.50%に据え置きました。これは7会合連続の据え置きとなります。インフレは鈍化しているものの、政策当局者は利下げ開始に向けてさらなる確信を得たいとの考えを示しました。
次は何が起こるのか:利下げは近いのか
インフレ率が米連邦準備制度理事会の目標である2%へ徐々に近づき、GDP成長率も大きく鈍化する中、市場の関心は、米連邦準備制度理事会がいつ利下げを再開し、どの程度引き下げるのかに移っています。
- インフレ見通し:米連邦準備制度理事会が重視するインフレ指標であるコア個人消費支出物価指数(PCE)は、2025年6月時点で2.8%となり、5月と同水準でした。ただし2023年初頭の5.4%からは低下しています。このインフレ鈍化傾向が続けば、多くのアナリストは2025年9月の利下げを予想しています。
- 市場予想:先物市場では、9月に少なくとも1回の利下げが行われる確率を85~90%と見込んでいます。年末までに追加利下げが行われ、2025年の利下げ幅が合計0.5ポイント(50ベーシスポイント)に達するとの見方もあります。監督担当副議長のMichelle Bowman氏は、2025年末までに3回の利下げが行われる可能性にも言及しています。2026年については、さらに金融緩和が進み、年央までに米国の政策金利が3.5%を下回るとの予測もあります。
- 米連邦準備制度理事会の見解:FOMC(連邦公開市場委員会)の委員は引き続き経済指標に基づく判断を重視しており、さらなるインフレ鈍化と、労働市場の強さが再び物価上昇圧力を高めていないことの確認が必要としています。
- 債券市場の反応:2025年7月下旬の会合後、米国10年国債利回りは約4.37%まで上昇しました。投資家は、インフレの根強さや政策維持に関するPowell議長の慎重な発言と、市場予想を上回る第2四半期GDP成長率を総合的に評価しました。
時期については依然として不透明ですが、方向性はより明確になっています。次の一手は利下げとなる可能性が高いと言えるでしょう。問題は、それがいつ実施されるかです。
米国経済全体への影響
金利低下は、金融引き締めによって冷え込んだ経済の主要分野を再び活性化させる可能性があります。
GDPと個人消費
- 2025年第2四半期の実質GDP成長率は3%となり、第1四半期と同水準ながら市場予想を上回りました。
- 個人消費は前年同期比1.4%増となり、第1四半期の0.5%増から大きく改善しました。
労働市場
- 雇用増加は緩やかながら安定しており、失業率は約4.2%で推移しています。
- アトランタ連邦準備銀行の賃金上昇率指標によると、7月の賃金上昇率は4.1%でした。前月よりやや低下したものの、パンデミック前と比べると依然高い水準にあり、人件費上昇圧力が続いていることを示しています。これはインフレの動向や米連邦準備制度理事会の政策見通しに影響する可能性があります。
景気後退リスク
- ニューヨーク連邦準備銀行が、短期金利と長期金利の差から算出するモデルでは、今後12か月以内に景気後退が起こる確率は28%とされています。前年の50%超からは低下しています。
- 民間予測は依然として分かれています。Goldman SachsやBarclaysは景気後退予想を引き下げた一方、S&P Globalや全米産業審議会は2026年初めの景気縮小リスクを警戒しています。
米連邦準備制度理事会にとっての課題は、インフレを再燃させず、同時に景気を停滞させないよう、政策転換の適切な時期を見極めることです。現在の金融政策はすでに景気を抑える方向に働いているため、小幅な利下げでも、消費者や借入人の負担軽減、市場の下支えにつながる可能性があります。
住宅市場への影響:住宅購入需要の喚起
住宅市場は、金利変動の影響を特に受けやすい分野です。過去3年間、その影響は明確に表れました。米連邦準備制度理事会の利上げに伴って住宅ローン金利が急上昇すると、住宅の購入負担が大きくなり、中古住宅の売り出しが減少し、購入希望者の多くが様子見に転じました。
しかし、金融政策が利下げ方向へ転換すれば、住宅市場は回復に向けた新たな局面を迎える可能性があります。
住宅ローン金利と住宅の購入しやすさ
- Freddie Macによると、30年固定住宅ローン金利は7月31日時点で平均6.72%です。2023年の約8%のピークからは低下したものの、パンデミック前と比べると依然高い水準です。
- 米連邦準備制度理事会が年末までに1回以上の利下げを実施すれば、住宅ローン金利は2026年半ばまでに5.75~6.25%へ低下する可能性があるとアナリストは予想しています。
- 住宅ローン金利が1ポイント(100ベーシスポイント)低下するごとに、住宅の購入しやすさは約10%改善するとされています。これにより、住宅ローンを利用できる購入者が増え、多くの地域で月々の返済額も数百ドル減少します。
- National Association of Realtorsは、30年固定住宅ローン金利が6%まで低下すれば、賃貸住宅に住む160万世帯を含む約550万世帯が、米国の中央値価格の住宅を購入できるようになると推計しています。そのうち約10%に当たる約55万世帯が、今後12~18か月以内に住宅を購入すると予測されています。
住宅建設業者の戦略と市場動向
- NAHB住宅市場指数は0~100で示され、50未満は住宅建設業者の景況感が弱いことを表します。この指数は7月に36ポイントへ小幅に上昇しました。住宅建設業者による住宅ローン金利の引き下げ支援や購入特典に加え、新築住宅への継続的な需要が支えとなっています。
- 住宅建設業者は、柔軟性を維持しながら資本負担を抑えるため、土地保有やオプション契約を含む「保有地軽量化戦略」を引き続き活用しています。
- 住宅在庫は歴史的に少ない状態が続いており、業界専門家やエコノミストは、米国の住宅不足を200万~600万戸と推計しています。金利が低下すれば、様子見していた需要が戻り、主要な成長地域で新規建設計画が活発化する可能性があります。
住宅購入者の動向と投資家心理
- 住宅価格や住宅ローン金利の上昇による影響を最も強く受けてきた初めて住宅を購入する層は、2026年に市場へ戻る動きが大きく広がると予想されています。同年には、初回購入者が新たに30万~50万人増えるとの推計があります。
- 投資家、とりわけ機関投資家は、景気回復の後半局面において、土地と住宅の相対的な安定性やインフレへの備えとしての特性を重視し、住宅不動産へ資金を再配分する可能性があります。
不動産・土地投資:次の景気循環への備え
過去の傾向を見ると、景気悪化時や景気拡大の勢いが弱まる時期は、長期的な不動産投資を始める戦略的な機会となってきました。高金利や販売の鈍化により土地価格が一時的に下がることはありますが、金利が低下して需要が戻ると、開発許認可取得済みの土地や、すぐに着工できる開発用地は価格が急速に上昇する傾向があります。
- 2020~2021年の回復局面では、金利低下と住宅建設業者による旺盛な土地取得を背景に、高成長の大都市圏で土地価格が25~40%上昇しました。
- 未上場企業への投資を行うファンドや機関投資家は、人口増加などによる需要の押し上げと構造的な住宅不足を背景に、長期投資先として再び土地取得に注目しています。
ウォルトン・グローバルの土地の自社保有を抑え、住宅建設業者と連携する事業モデルは、次の市場局面を捉えるうえで有利な位置にあります。当社が持つ開発許認可取得の専門知識、住宅建設業者との提携関係、少ない自己資金で事業を進める手法は、住宅市場が回復から拡大へ移る局面で強みとなります。
今後の見通し
米連邦準備制度理事会の金融政策は岐路に立っています。インフレが鈍化し、経済成長の勢いが弱まる中、戦略転換の条件が整いつつあります。正式な方針転換はまだ発表されていませんが、市場は7月下旬の会合を皮切りとする今後の会合で、金融緩和の兆候が示されるかに注目しています。
米国経済、特に住宅市場にとって、金利低下がもたらす影響は大きいと考えられます。
- 住宅の購入しやすさと住宅購入者心理の改善
- 建設・土地開発活動の再開
- 住宅不動産への投資意欲の高まり
戦略的に土地を取得する機会が広がりつつあります。ウォルトン・グローバルは、人口動態に支えられた需要、解消されにくい住宅不足、住宅所有による長期的な資産形成という基本要因を引き続き重視しています。金利負担の軽減が見込まれる中、2025年後半には住宅・土地投資の幅広い分野で魅力的な機会が生まれると考えています。
出典:Federal Reserve Board (FOMC Meeting Statements, March 2020 – July 2025) | U.S. Bureau of Economic Analysis, Q1 2025 GDP Report | U.S. Bureau of Labor Statistics, July 2025 Employment Summary | Freddie Mac PMMS Data, July 2025 | John Burns Research & Consulting, Mortgage Affordability Tracker | National Association of Home Builders (NAHB), HMI Survey – July 2025 | CoreLogic Land Price Index, 2020–2024 | MSCI Real Assets Quarterly Trends Report, 2025 | The Conference Board, Leading Economic Index, June 2025 | Goldman Sachs & Barclays U.S. Outlooks, June 2025 | U.S. Treasury, Daily Treasury Yield Curve Rates, July 2025 | Preqin & NCREIF Institutional Allocations to Real Assets – Midyear 2025 | Harvard Joint Center for Housing Studies, Housing Supply Report 2024 | Realtor.com | Housing Supply Gap Reaches Nearly 4 Million in 2024
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